チベットでの中国の政策に対する批判に対し、呉海龍(ウー・ハイロン)駐EU中国大使は、中国がここ数ヶ月に相次いで起こった焼身自殺に「深く心を痛めている」と答えた。
一方で、ヨーロッパにおける中国の首席大使である呉氏は、焼身自殺についてEUが中国を非難することに懸念を示した。
2009年以降、多数のチベット人が中国共産党の方針に抗議して焼身自殺を図り、多くの人々が命を落としている。
中国当局は、取り締まりや容疑者の逮捕、僧院の封鎖、僧侶への政治的な再教育を定期的に行っているが、四川、チベット、甘粛、青海のチベットコミュニティーでは、なおも抗議が続いている。
多くの焼身自殺者が出ていることで、再び中国の人権問題に目を向ける欧州議会議員もいる。特に英国のエドワード・マクミラン-スコット氏などは、中国の「一党独裁政権」や「チベットでの弾圧政策」に対して非難している。
しかしながら、ヨーロッパで最も上席の中国高官である呉氏は、独占インタビューで批判に対して反撃し、当ウェブサイトに対し「命は尊いものだ。中国政府は13億人ひとりひとりの命を重んじており、焼身自殺を防止するよう最大限の努力をしてきた」と述べた。
「自殺者は極端な方法で命を絶ち、家族や友人に大きな苦しみをもたらしている。われわれは命が絶たれることに深い悲しみをおぼえ、残された家族に同情する」
しかし、呉氏はチベットに対する中国政府の政策をかたくなに擁護し、「自殺行為の秘密裏の計画、挑発、組織、実行に関わっている海外の団体がある」と述べた。
「焼身自殺の直後に、ダライの仲間はビデオや写真、自殺者についての情報などを常にメディアに提供できる状態にある。彼らは宗教や少数民族に対する中国政府の政策を非難し、チベット独立運動を擁護し、国際社会に対して公然と干渉を促している」
続けて、「焼身自殺の影響を受け、EUで様々な意見が出ていることも認識している。しかし、自制心や道徳を無視した自殺行為や背後に関係する人々を非難するのでなく、EUは中国政府を批判している」
「このような状況は誤解を招くだけでなく、ヨーロッパの価値観や人権の原則に矛盾する」
呉氏は、焼身自殺がもたらす問題に対処したいと述べた。
「まず、チベット人は本当に宗教の自由を得ていないのだろうか?」
「統計によると、300万人強のチベット人の中で、僧侶の数は46,000人、僧院も1,780ある。平均すると1つの僧院に対して1,600人となり、僧院の数では中国地方都市のトップレベルといえる」
「ここ数年の間、中国政府はフレスコ画、仏像、タンカ(仏画)、経典、楽器、祭壇の保護や修復のために莫大な投資をしてきた」
また、チベット語や文化を抑圧しているということに反論し、「チベットでは、チベット語と北京語を同様に重要視することが法律によって明確に規定されており、第一にチベット語に重点がおかれている。学校ではチベット語と北京語の2か国語での指導を行っている」
「チベットにおけるチベット語への注目度は、EU圏の特定の国であまり話されていない公用語と比較してもかなり高いと言ってよいだろう」
また、チベットの伝統が脅かされているというのは誤りであるとも発言。「チベットに対して固定観念を持つ人々がいて、「理想郷」は変わらぬ姿で永遠に存在すべきであり、近代化から隔離しなければならないなどと信じている。これは非現実的で偏った考え方だ」
もうひとつの「思い違い」として呉氏が挙げるのは、チベットへの外国人立ち入り禁止についてである。
「2005年には、国内外から180万人の人々がチベットを訪れた。ところが2012年には、1月から11月までの間に、すでに1千万人以上が訪問しており、これはチベットの人口の3倍にあたる。観光地として人気のあるフランスの年間訪問者数は8千万人だが、これは人口の1.25倍でしかない」
「チベットは低酸素と低気温で移動手段も限られており、環境もダメージを受けやすく、受け入れ人数にも限りがあるため、中国政府は円滑な移動と旅行者の安全を考え、チベットに入る外国人の数を限定するという方針を取っている」
「しかしながら、この方針は、チベットに関心のある外国人の入国を拒むものではない」
「より多くのヨーロッパ人がチベットを訪れ、国の美しさと人々の生活に触れていただきたいと心から思っている。私が説明するより、実際に訪問されれば納得がいくと思う」
しかし、民主と人権方案の副議長であり、3年間続いた報道規制後の1996年に最初にチベットを訪れた政治家であるマクミラン-スコット氏は呉氏の発言に意義を唱えた。
「呉海龍大使の意見を聞くと、チベット人社会でなぜあれほどまでの不満が起こっているのか納得できる。中国の高圧的な政策に抗議し、およそ100人ものチベット人が悲劇的な焼身自殺をとげた責任については、中国の一党独裁政権は堂々と否定し、精神的指導者であるダライ・ラマ法王を亡命に追い込んだ。法王はチベットは刑務所であると発言されている」
マクミラン-スコット氏は、欧州議会のチベットインターグループ(Tibet intergroup)が、「中国独裁政権が語学を含め、チベットの文化を組織的に破壊しているという確かな証拠を今後も入手していく」とも述べた。
「中国独裁政権が、臓器移植用の臓器を得るためにチベット人の囚人やタバコやアルコールを摂取しないウイグル人や法輪功の信者を殺害していることもわかっている」
「呉海龍大使はEUの大使として、「チベットは海外からの訪問者を歓迎している」という事実無根の主張の証拠を示すべき。欧州議会議員の特使をチベットへ派遣し、チベットの自由を弾圧する治安部隊に監視されることなく、事実解明のために独自の調査をさせてほしい」
「アメリカが10年以上も行っているように、EUもチベット特別大使を任命すべきだ」
(翻訳:パドマサマディ)